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国際税務Vol.63 国外転出時課税~出国だけではない!?

国外転出時課税~出国だけではない!?~

国際税務Vol.63

こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の木下です。

今回は個人の国外転出時課税がテーマとなります。

 いわゆる出国税といわれるもので、株式などの有価証券等を所有する者が出国等した場合に、有価証券等が売却されたものとして税金が課されるものです。
これは、含み益のある有価証券等を保有したまま、シンガポールなどのキャピタルゲイン非課税国に移住して売却を行い、日本での課税を逃れることが横行していたため、導入された制度となります。

 出国とありますが、贈与相続の際にも適用がありますので、確認していきたいと思います。

 

国外転出時課税の対象者

国外転出(国内に住所及び居所を有しなくなること)等をする者が、株式等の対象資産を有する場合には、国外転出時に対象資産の譲渡等があったものとみなして所得税が課されます。

ただし、国外転出時等に有する対象資産の合計金額が1億円未満の場合や、国外転出時等の直近10年以内において居住者であった期間が5年以下の場合には、国外転出時課税の対象から外れます。

 

対象資産

対象資産は下記となります。なお、ビットコインなどの暗号資産は対象資産から除かれております。

①株式や投資信託、公社債などの有価証券
②匿名組合契約の出資の持分
③未決済信用取引や未決済デリバティブ取引など

 なお、1億円の判定は所得税ベースの時価となりますので、非上場株式等の時価を求める際には特に注意が必要です。

申告期限

 国外転出までに納税管理人の届出を提出しますと、通常の確定申告と同様に翌年3月15日が申告納付期限となります。
届出をしない場合には、国外転出時までが申告納付期限となります。

納税の猶予

 実際には売却していないものに対して、税金が課される制度のため、納税資金の不足が懸念されます。
 その場合には、国外転出の日から5年4ヶ月を経過する日まで、納税の猶予をすることが可能です。(10年4ヶ月まで延長可能。)

 納税猶予を受けるためには、国外転出時まで納税管理人の届出を行い、かつ、申告期限までに確定申告書等の提出及び納税猶予分の所得税額等相当の担保を提供する必要があります。

 なお、納税猶予期間中は、毎年、継続適用届出書を提出する必要があります。

納税猶予の担保資産

 国債及び地方債、不動産、税務署が確実と認める社債や株式などの有価証券等が対象となります。
なお、非上場株式等については株券を発行する必要があるため、株券発行会社への移行費用や管理等の負担がありました。しかし、令和5年度税制改正によって、質権の設定がされていないなど一定の要件を満たしていれば、株券不発行のままで担保に供することが可能となりました。

帰国等した場合

 国外転出後、5年を経過する日までに帰国して、対象資産を継続して有している場合には、国外転出時課税はなかったものとして、課税の取り消しを行うことができます。その際、帰国の日から4ヶ月以内に更正の請求が必要となります。

贈与・相続も対象

 国外転出時の取り扱いを述べてきましたが、贈与・相続の際も国外転出時課税の適用があります。
具体的には、上記対象者が対象資産を非居住者の親族等に贈与・相続した場合に、対象者である贈与者(被相続人)に対して対象資産の譲渡等があったものとみなして所得税等が課されます。

相続の場合の申告期限

被相続人の準確定申告の期限は相続開始後4ヶ月となります。
被相続人に他の所得がなかったとしても、4ヶ月以内に対象資産を把握して、国外転出分の所得税を計算する必要があります。
また、被相続人の銀行口座等の資金が凍結されるため、納税資金納税猶予のための担保を準備する必要があります。

国外転出への対策

こういった状況に相続人がならないように対策が必要です。

例えば、

・非居住者に対象資産が相続されないように遺言書を作成する。

・対象資産から先に贈与をする。

・投資先を対象資産から不動産などに切り替える。

・納税資金を確保する。

どちらにせよ、現在の資産状況や課税のリスクなどを将来の相続人に共有し、将来の不安や負担を減らしていくことが大切ではないでしょうか。