国際税務Vol.62 外国人の一時帰国費用~ホーム・リーブの取扱い~
外国人の一時帰国費用~ホーム・リーブの取扱い~
国際税務Vol.62
こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の乾です。
今回は外国人の一時帰国費用がテーマとなります。
昨今の円安もあり町中で外国人を見る機会が多くなりましたね。そのせいでホテルもなかなか取りづらいと聞きますし、朝の通勤ラッシュに大きなスーツケースを持つ外国人が乗っていることを見かけたりもします。車文化で通勤ラッシュを体験したことのない外国人はびっくりしてお互い笑って「oh!my go~~~d!」と楽しんでました!
観光は楽しいでしょうけれど、外国人が文化の違う日本へ来て働くことは大変なことだと思います。
そんな外国人従業員について、ホーム・リーブ費用の取扱いについて確認していきたいと思います。
給与所得とは
まず給料について確認していきたいと思います。
通常使用人や役員について給料のほか「経済的利益」を享受させれば、それらも給与と見なされて所得税の課税対象となります。
「経済的利益」とは、難しい言葉ですが要は給料以外に何らかの利益を会社から受けている取引を言います。
例えば、会社に着ていくスーツなどを会社が負担するという行為をしてしまうと、通常は自身で購入すべきものですから、これは賞与として取り扱われることになります。
経済的利益には、次に掲げるような利益が含まれます(所得税基本通達36-15)。
1.物品その他の資産の譲渡を無償又は低い対価で受けた場合におけるその資産のその時における価額又はその価額とその対価の額との差額に相当する利益
2.土地、家屋その他の資産(金銭を除く。)の貸与を無償又は低い対価で受けた場合における通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益
3.金銭の貸付け又は提供を無利息又は通常の利率よりも低い利率で受けた場合における通常の利率により計算した利息の額又はその通常の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額に相当する利益
4.2及び3以外の用役の提供を無償又は低い対価で受けた場合におけるその用役について通常支払うべき対価の額又はその通常支払うべき対価の額と実際に支払う対価の額との差額に相当する利益
5.買掛金その他の債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額又は自己の債務を他人が負担した場合における当該負担した金額に相当する利益
一時帰国費用の通達
では外国人従業員に対する一時帰国費用(ホーム・リーブ)の会社負担については、個人的な費用を会社が負担したとして経済的利益を受けているから給与課税とならないのでしょうか。
これについては昭和50年に下記の通達が定められており、現在もこれ以外の通達はないということになります。
国内において勤務する外国人に対し休暇帰国のため旅費として支給する金品に対する所得税の取扱いについて(直法6-1(例規)昭和50年1月16日)
標題のことについて、下記のとおり定めたから、これによられたい。なお、この取扱いは、今後処理するものについて適用するものとする。
《趣旨》
本国を離れ、気候、風土、社会慣習等の異なる国において勤務する者について、使用者が、その者に対し休暇帰国を認め、その帰国のための旅行の費用を負担することとしている場合があるが、その休暇帰国はその者の労働環境の特殊性に対する配慮に基づくものであることに顧み、使用者がその旅行の費用に充てるものとして支給する金品については、強いて課税しないこととするのが相当と認められるからである。
記
使用者が、国内において長期間引続き勤務する外国人に対し、就業規則等に定めるところにより相当の勤務期間(おおむね1年以上の期間)を経過するごとに休暇のための帰国を認め、その帰国のための旅行に必要な支出(その者と生計を一にする配偶者その他の親族に係る支出を含む。)に充てるものとして支給する金品については、その支給する金品のうち、国内とその旅行の目的とする国(原則として、その者又はその者の配偶者の国籍又は市民権の属する国をいう。)との往復に要する運賃(航空機等の乗継地においてやむを得ない事情で宿泊した場合の宿泊料を含む。)でその旅行に係る運賃、時間、距離等の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の旅行の経路及び方法によるものに相当する部分に限り、課税しなくて差支えない。
具体的には・・・
この通達から読み解くとホーム・リーブ費用の適用対象となるのは、海外の親会社等からの出向や転勤などにより、親会社等のある本国を離れて、日本に赴任している社員など(いわゆるエクスパット)が対象となるものと考えられます。
一つの疑問として、従業員以外の役員は対象となるのかという点が気になりますが、外国の親会社の役員や社員が、出向や転籍によりその子会社である内国法人の役員に就任し、勤務している場合も通常あり得る話でこれについて異なる扱いをする理由は見当たりませんので、同様に解して差し支えないものと思われます。
ただ、例えば、外資系ではない日本の企業が外国人を国内で採用し、直接雇用契約を締結した場合には、この取扱いの対象外と考えます。なぜならその外国人は自ら選択して日本での勤務を求めていたわけです。
また外国人が日本で自ら設立した法人の役員である場合にも、海外の親会社等から出向等しているわけではありませんので、この取扱いの対象外となるものと思われます。
そのほか例えば、外国人が日本に赴任して2~3ヶ月経過したが、時期的にクリスマスとなり、休暇で本国に戻る際に会社が一時帰国費用を負担するというような場合には、例え就業規則において1年に1度帰国費用を負担する規則であったとしても、通達の適用は認められないと考えます。これは通達の趣旨が、「相当の勤務期間(おおむね1年以上の期間)を経過するごとに休暇のための帰国を認め」とありますから、まだ赴任後1年以上の期間を経過していないのでしたら、異質な環境での労働者への配慮という通達の趣旨にあたらないと思われます。