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相続・事業承継Vol.62 配偶者居住権の活用 前編 ―なぜ配偶者居住権を利用するのか-

配偶者居住権の活用 前編 ―なぜ配偶者居住権を利用するのか-

相続・事業承継Vol.62

 

皆さんこんにちは。SUパートナーズ税理士法人の露谷です。

今回は相続に関するお話です。

 長年寄り添った配偶者が亡くなった時、その亡くなった配偶者の相続税の申告や遺産分割について、様々な法的手続きを行う事となります。
 しかし、自身の他に子息や兄弟などの法定相続人が複数いれば意見が分かれてしまう事もあり、話し合いがまとまらないなんて事もよく耳にします。

 多くの原因は「相続財産がたくさん欲しい」「こんなに相続税を払いきれない」「あの人には財産を渡したくない」などあまり綺麗な物事ではないことも事実です。

 そんな中、近年施行された「配偶者居住権」がこういった「揉め事」の解決案の1つとして注目される事があります。

今回はこの「配偶者居住権」についてご説明させて頂きたいと思います。

・そもそも「配偶者居住権」って、なに?

 「配偶者居住権」とは、残された配偶者が被相続人(亡くなった人)の所有する建物に居住していた場合で、一定の要件を充たすときに被相続人が亡くなった後も、その残された配偶者が賃料等の負担なくその建物に住み続ける事ができる権利のことを言います。

 例えばですが、ある一軒家で共に過ごしているご夫婦がいたとします。この一軒家はすべて夫の名義で夫の財産でした。
 しかしある時、夫が亡くなってしまった事からこの一軒家を誰かに相続する必要がでてきました。
 その際にその一軒家が“誰に相続されたとしても”夫と一緒に居住していた配偶者である妻はそのままその一軒家に住み続けるという権利を主張する事ができるようになったのです。

これが「配偶者居住権」の大筋となります。

・なぜそんな制度が必要となったのか?

 よくある話としては相続税の負担を軽減するために配偶者以外の相続人に相続する事、また滅多にありませんが、その建物を売却しなければいけない状況になるという事等があります。
 しかし、近年社会の高齢化が進み平均寿命が延びたことから、残された配偶者が長年に渡り住み慣れた住居を離れてしまう事は心身に大きな負担となってしまいます。
 今までは相続の分割協議にて他者にその建物の権利を取られてしまった場合、その権利者に退去を命じられれば、法律上は従わなければいけませんでした。

 しかし、高齢者にしてみればそれはあまりにも大きな負担であり、倫理的に考えてみても長く生活していた住居から追い出すかのような行いは善行でないことは明白です。

 このような背景から令和2年4月より残された配偶者の住居(居住権)を保護するための方策として「配偶者居住権」が施行される事となりました。

・解決案の1つとなる根拠は?

 この「配偶者居住権」の主張ができることにより配偶者はそれまで居住していた建物を他者に相続されても居住し続ける権利を主張する事が可能となりました。
 つまり配偶者以外の相続人やこの建物の取得者はこの権利により自身がその建物を相続・取得しても利用方法が大幅に制限される事になるのです。
これにより私利私欲でその建物を利用しようとする人には扱いづらい財産となります。

 逆に、残された配偶者の生活環境を考えながら相続税の負担をできる限り軽減したいと考える人には遺産分割の1つの案としてとても利用しやすい法律となるのです。

遺産分割をする際には解決案の1つとして「配偶者居住権」をぜひ活用してみてください。

次回、後半では税務面での活用方法や実際に利用す為の諸手続きなどをご紹介したいと思います。