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国際税務Vol.61 国際間リモートワークの有効活用

 

国際間リモートワークの有効活用

国際税務Vol.61

 

皆様こんにちは。

 コロナ禍中に新しい働き方としてリモートワークがすっかり定着したと思いきや、最近はオフィス回帰を促し徐々にリモートワークを廃止している企業も多いと聞きます。日本以上に合理性を追求するように見えるアメリカにおいてその動きが顕著であることは意外に思えます。リモートワークのみで完結するのは難しいのかもしれませんが、適度に取り入れることによって、業務の効率化やワークライフバランスの実現を図ることが可能なのではないかと思います。

 例えば外国に子会社を持つ日本企業が、グループ内の人材の有効活用のため、海外子会社従業員に本社の管理業務の一部を手伝ってほしい、といった場合にもリモートワークは有効です。本格的に国外から日本へ出向ともなると、就労許可の取得や住居の手配など煩雑な手続きも多く、双方にかなりの負担を強いられますが、リモートであればそれらの手間も必要ありません。外国の子会社に所属したまま日本の本社の業務をリモートで行ってもらい、その対価として給与及び関連する間接経費の実費相当額を外国子会社へ支払うことにします。その場合の税務上の課題を検討してみようと思います。

 外国子会社の従業員がリモートにより本社の業務に従事しますが、雇用関係は外国子会社との間にあるため給与の支給は外国子会社から受けることになります。親会社が支払う対価は本人に対する給与ではなく子会社に対する業務報酬として支払われることになるので、両社間で業務委託契約を締結することがまず必要となります。この契約は親子会社間で実施されるものであることから、移転価格税制の検討を要します。すなわち対価は独立企業間価格で設定する必要があり、実費のみの精算ではなく、適切なマークアップを付すことが必要となるでしょう。対価の合理性を立証できるように、本社業務に係る報告書等や対価の算定の根拠となる資料を作成、保存しておくことが必要となります。

 また、国外において業務を行う際には恒久的施設(以下”PE”)認定課税のリスクも検討する必要があります。昨今は日本の会社の従業員が他国へ出向した場合に現地においてPE認定されるケースが増加しています。今回のケースの場合、業務を行う従業員を特定の個人に限定すると、親会社との間に実質的な雇用関係があるとみなされる可能性もあり、PE認定されるリスクが生じることとなります。

 業務内容としては日本本社の管理業務であり、直接売上に貢献するものではなく、交渉や契約締結を行うといったものでもないため、PE認定されるリスクは低いと考えられます。リスクを最小限にするために、契約書においては業務実施者を特定の個人に限定せず、業務の管理や評価はあくまでも子会社においてなされること、および業務内容が営利活動を目的としたものではなく、従業員の権限や裁量が限定されていることなどを明言しておくことが望ましくなります。

 PE認定課税に積極的である国、例えば中国やインドなどの場合は自国に十分に利益が落ちていないと考えた場合、強引にPE認定課税を行おうとする傾向があるため注意が必要です。業務契約書を作成する際に上記のように内容や文言を慎重に検討して作成することが求められます。

 国際間の取引における税務上のリスクを考慮しつつ、リモートワークの便利さを享受して業務の効率化を図ることも、今後は必要となってくるのではないでしょうか。