相続・事業承継Vol.60 遺言書は絶対か!?
遺言書は絶対か!?
相続・事業承継Vol.60
こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の三橋です。
突然ですが、プッチーニのオペラ「ジャンニ・スキッキ」を御存じでしょうか?「私のやさしいお父さん」というアリアが有名です。フィレンツェの大富豪ブオーゾが息を引き取り、親族たちが大げさに涙を流す場面から始まるのですが、彼らの関心事は専ら遺言書の中身。
遺言書を開くとそこには「全額を修道院に寄付する」とあり、親族たちはがっかり…そこで知恵者ジャンニ・スキッキに相談し、一計を案じます。
前回は遺言書を書く側のテーマでしたが、今回は遺言書を開く側のお話しをさせて頂こうと思います。実際の相続でも、遺言書が相続人にとって納得のいかないケースはあるでしょう。その場合でも遺言書には絶対従わないといけないのでしょうか?原則的には遺言書があれば被相続人の意思が尊重されます。しかし下記のような場合は、必ずしも遺言書の通りにする必要はありません。
- 遺言書が無効な場合
遺言書には作成日付、自署押印等民法で定められた作成ルールがあり、要件を満たしていない遺言書は無効になります。公正証書遺言では無効になるケースはないと思われますが、自筆証書遺言では不備により無効になるケースも多いと思われます。
- 遺留分を侵害している場合
兄弟姉妹以外の法定相続人(父母、配偶者、子)には遺留分があります。遺留分の金額は法定相続分の半分です。遺言書で全財産を修道院に寄付すると記載してあっても、それぞれ遺留分までの財産は受け取ることができます。この場合は遺留分侵害額請求権を行使し、金銭で受け取ることになります。遺留分は請求しないともらえず、時効は1年です。
- 相続人全員の合意がある場合
原則的に相続人全員が合意すれば遺言書に従う必要はありません。遺産分割協議を行い分けることになります。ただし相続人以外に受遺者がいる場合(ブオーソの遺言の場合修道院)、遺言執行者(信託銀行など)がいる場合には、受遺者又は遺言執行者の同意が必要となります。
- 相続の放棄
遺言書で誰々に財産を承継すると書かれていても、相続の放棄は可能です。
ジャンニ・スキッキが考えた策は、ブオーソの遺体を隠して自分がブオーソになりすまし、公証人を呼んで遺言を改竄するというもの。当然バレたら重罪、一蓮托生の誓いのもとに作戦を決行します。親族はそれぞれ「自分は〇〇が欲しい」とスキッキに遺言の指定をするのです。公証人を前にスキッキは親族に財産を分配していくのですが、一番価値のある財産は「親友のジャンニ・スキッキに!」と、まんまと手に入れてしまうのです。遺言の改竄がバレたら一環の終わり、親族たちは怒り狂いますが抗議することもできず…。スキッキの娘と親族の一人は恋仲で、持参金を用意できない娘との結婚は認められないと親族一同から反対されていたのですが、無事持参金を用意することができてハッピーエンドというお話しです。
なお(現在のお話しに戻ります)書き換えられた遺言書は無効になりますし、遺言書を偽造・変造等した者は相続人の資格を失います。自筆証書遺言は偽造・変造の可能性がありますので、公正証書遺言か自筆証書遺言保管制度を利用する方が安心なのではないでしょうか。