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国際税務Vol.59 外国人スポーツ選手~外国人スポーツ選手は日本に来たくない⁉~

 

外国人スポーツ選手~外国人スポーツ選手は日本に来たくない⁉~

 

国際税務Vol.59

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。

2024年3月に有名なサッカー選手であるイニエスタ選手が日本の税務当局に5億8000万円を追徴課税されたというセンセーショナルなニュースが飛んできました。

ファンの方は驚かれたことと思いますし、見出しだけを見た一般の方はイニエスタが何か所得隠しをして悪いことをしたように思ったかもしれません。
いったい彼に何が起こったのか・・・

スーパースター

イニエスタ選手と言えばスペインが誇るスーパースターです。日本に来る前はリオネル・メッシ、シャビ・エルナンデスらと並んでスペイン史上最高の選手の一人とされています。FCバルセロナでは2002年から2018年までプレーし、そのうち2015~2016年は3シーズンにわたりキャプテンも務めました。
その後2018年にヴィッセル神戸に移籍し、2019年にはクラブ史上初の天皇杯優勝に貢献するなど活躍しました。

まさか・・・

そんな活躍をしてきたイニエスタに追徴課税が課されたと2024年3月に報じられました。
問題となったのはJリーグの契約金に関して所得税などの申告漏れとのことです。

具体的にはイニエスタ選手はヴィッセル神戸に所属していた2018年7月から2023年7月のうち、2018年分の契約金などについて、大阪国税局からおよそ8億6000万円の申告漏れを指摘され、およそ5億8000万円を追徴課税されました。
関係者によると、イニエスタ選手は2018年7月~2023年7月、ヴィッセル神戸に所属していたが、1年未満の契約だった2018年分の所得約8億6千万円は非居住者として源泉徴収、複数年契約となった翌年以降は確定申告していたようです。
国税局は移籍当初から家族と同居していたなどとして、30年も居住者に該当し、確定申告が必要だったと判断。約5億8千万円を追徴課税しました。

なぜ?

日本における個人に対する所得税の課税所得の範囲や税額を確定させるためには、納税義務者の居住形態が非常に重要なポイントとして判定されることになります。ただ、この判定は事実認定により総合的に判断する必要があるため、非常に悩ましく争いの多いところです。

居住者」、居住者のうち「非永住者」、「非居住者」という3つの区分があります。

居住者」とは、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続き1年以上居所を有する個人」を言います。ここにいう「住所」とは「生活の本拠をいい、生活の本拠であるかどうかは客観的事実によって判定する」とされています。

次に、「非永住者」とは、「居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人」をいいます。

最後に、「非居住者」とは、「居住者以外の個人という」となっており、つまり「日本国内に住所も1年以上の居所も有しない個人」ということになります。

 

イニエスタ選手は、来日した2018年は7月からの1年未満の契約であり自身を「非居住者」と認識して源泉徴収税額のみで完結したと考えていたのですが、大阪国税局は家族なども日本に呼び寄せたことから「生活の本拠が日本」と認定し追徴したものと思われます。
インターネットを検索してみると2018年8月5日に家族と来日しているとの情報がありましたので、7月ではないにしても8月には家族も日本に来ていたようです。

「居住者」と判定されると、全世界所得課税となり日本以外の国で稼いだ所得も日本で税金を納めなければなりません。おそらくイニエスタ選手は居住者のうち「非永住者」と認定されたのでしょう。

そのため当初源泉徴収の対象となったJリーグの契約金の所得と、おそらくは国外で稼いだ所得のうち日本に送金したものについて申告をすべきとされ、8億6000万円の所得漏れがあると認定され、それを合算したうえで全所得に累進税率が適用されたため5億8000万円の追徴課税がされたと推測されます。

コメント

イニエスタ選手は下記のコメントを発表しています。※一部抜粋引用

「2018年の後半に、公に知られているように、私はヴィッセル神戸と契約後、日本に移住しました。2018年の期間は全世界の所得を対象としてスペインで所得税申告書を提出しました。」日本で追徴課税分の納税は済ませたうえで「その期間の所得は明らかに負担の大きい二重課税を受けているため、スペインと日本の間の二重課税協定に規定されているいわゆる『友好的な解決』を開始するよう要請しました。この手続きは現在進行中であり、両国が合意に達したことに基づく速やかな解決を待つとともに、支払った超過税金が返還されることを望んでいます」と、コメントしました。

いくらお金持ちだろうと、この二重課税の負担感はたまらないでしょうね。

悔やまれます

各スポーツ業界で外国人選手が活躍することは多いので、なぜこのようなことになったのか不思議でなりません。イニエスタ選手の専属の税務アドバイザーやヴィッセル神戸を含むJリーグのチームの顧問税理士が、外国人選手の契約時のアドバイスを行っていると推測されるので、アドバイスが無かったと思えないです。イニエスタ選手がそれを失念したのでしょうか。

私は海外勤務をしたことはありませんからわかりませんが、異国の地で、高いパフォーマンスを期待され、高いプレッシャーを受ける中で成果を出さなければいけないスポーツ選手からすればご家族の支えは欠かせないものかと思います。

イニエスタ選手が家族とともに来日した時点で税務アドバイザーもその状態に適切な対応をしていれば、このような事態にはならずに済んだのでしょう。結果論ですが。

円安も進み一般的にも日本で働く外国人は、日本で働く魅力が減少しています。税金面の重税感、リスクなどがあると外国人スポーツ選手が日本に来てくれなくなるのではないかとさえ心配します。

日本・スペインの国税当局の一日も早い合意のもとイニエスタ選手の二重課税が解消されることを願います。