ブログBlog

相続・事業承継Vol.59 回収困難な貸付金の相続税評価

回収困難な貸付金の相続税評価

相続・事業承継Vol.59

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の宮崎です。

会社に貸し付けをしているオーナーにとって気を付けたい税務裁判がありました。令和5年8月31日、東京地方裁判所において、回収困難な貸付金の相続税評価を巡る税務調査で納税者敗訴の判決がありました。

事案の概要は次のとおりです。

・被相続人:兄 相続人:弟
・兄の全財産を弟が取得
・兄は、自身の会社(A社)に6,000万円貸し付けていた。
・貸付金は無利息・返済期限なし
・A社は解散し、貸付金6,000万円のうち1,400万円が返済された。
・相続人である弟は、貸付金を1,400万円として相続税申告した。

⇒税務調査により、貸付金は1,400万円ではなく、6,000万円として更正処分された。

財産評価基本通達では、貸付金の元本の評価を返済されるべき金額と規定しています。
ただし、例外として、下記の規定があります。

<財産評価基本通達205  貸付金債権等の元本価額の範囲>
・・・その債権金額の全部又は一部が、課税時期において次に掲げる金額に該当するときその他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては、それらの金額は元本の価額に算入しない。

(1) 債務者について次に掲げる事実が発生している場合におけるその債務者に対して有する貸付金債権等の金額

イ 手形交換所において取引停止処分を受けたとき
ロ 会社更生法の規定による更生手続開始の決定があったとき
ハ 民事再生法の規定による再生手続開始の決定があったとき
ニ 会社法の規定による特別清算開始の命令があったとき
ホ 破産法の規定による破産手続開始の決定があったとき
ヘ 業況不振のため又はその営む事業について重大な損失を受けたため、その事業を廃止し又は6か月以上休業しているとき

(2) 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定又は法律の定める整理手続によらないいわゆる債権者集会の協議により、債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等の決定があった場合において、これらの決定のあった日現在におけるその債務者に対して有する債権のうち、その決定により切り捨てられる部分の債権の金額及び次に掲げる金額

イ 弁済までの据置期間が決定後5年を超える場合におけるその債権の金額
ロ 年賦償還等の決定により割賦弁済されることとなった債権の金額のうち、課税時期後5年を経過した日後に弁済されることとなる部分の金額

(3) 当事者間の契約により債権の切捨て、棚上げ、年賦償還等が行われた場合において、それが金融機関のあっせんに基づくものであるなど真正に成立したものと認めるものであるときにおけるその債権の金額のうち(2)に掲げる金額に準ずる金額


相続人は上記通達を基に、解散により返済された金額を相続財産として申告したのですが、裁判所は税務署の更正を支持し、納税者敗訴となりました。

主な判断内容は下記になります。

・貸付金が無利息で返済期限がない

・会社は、不動産賃貸収入が継続的にあり、黒字であった

・会社は相続開始時点でも事業を継続しており、解散に至った理由は相続人等の事情によること

・当該会社が、経済的に破綻していることが客観的に明白で、債権の回収の見込みがないか、又は著しく困難であると確実に認められるときしか、通達の特例は適用できない


回収困難な貸付金は実務でよく見かけるのですが、貸付金を減額評価するのはかなり慎重に検討する必要があります。

なお、この裁判は原告からの控訴はされず、納税者敗訴で確定しているようです。