相続・事業承継Vol.54 資産管理会社の活用(応用編その5)~個人から法人へ~
資産管理会社の活用(応用編その5)
~個人から法人へ~
相続・事業承継Vol.54
こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の宮崎です。
前回のSUレター(相続事業承継Vol.53)で紹介した資産管理会社の活用法の続きです。前回のSUレターでは、個人オーナーの所得を不動産管理会社に移転させるための方法として、最も所得移転ができる方式「不動産所有方式」の留意点9 借地権の問題をクリアしましょう を説明しました。
今回はその続きになります。
まずは、復習として前回の記事を再掲します。
留意点 9 借地権の問題をクリアしましょう
土地が個人、建物が法人の場合、借地権の認定課税の問題があります。
<借地権の認定課税とは>
借地借家法により借地人には強い権利があります。反対に、地主には、将来の地代の改訂が困難だったり、借地人からの契約更新の申し出に拒否することが制限されたりします。これらの経済的な不利益を回避するために、権利金を授受することが慣行化されています。
→権利金を授受しない場合、贈与とみなされ「権利金の認定課税」が行われます
次に、様々なパターンで課税関係がどうなるか見ていきます。
① 権利金授受なし
② 権利金授受あり
③ 相当の地代方式
④ 無償返還方式
⑤ 使用貸借方式
前回までは、①~③を説明しましたが、今回は④と⑤を説明します。
④ 無償返還方式
権利金の収受がなく、また、相当の地代の授受もない場合、基本的には権利金の認定課税が行われます。ただし、借地人と地主が、将来その土地を無償で返還することを定めて税務署長にその旨の届出書を提出した場合には、権利金の認定課税に代えて、相当の地代と設定した地代との差額について、地代を認定課税する取扱いがされます。
ただし、地主が個人で、借地人が法人である場合は、相当の地代に満たない地代でも地代の認定課税はされません。
すなわち、地代はゼロから相当の地代の範囲内で自由に設定できます。しかし、固定資産税未満の地代の場合は、次の「使用貸借」とみなされますので注意が必要です。
<要件>
・地主が個人で、借地人が法人であること
・土地の賃貸借契約書に、将来借地人が土地を無償で返還することを記載する
・「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する
・固定資産税相当額以上の額で地代を設定する
<パターン別課税関係>
借地人(不動産管理会社) |
地主(個人) |
|
借地権設定時 |
課税関係なし |
課税関係なし |
地代の額 |
固定資産税相当額から相当の地代の額の間で自由に設定可能 |
|
地代の取扱い |
損金の額に算入 |
不動産所得の収入金額に算入 |
相続税評価額 |
(株価評価) 自用地評価額×20% |
自用地評価額×80% |
メリット
・土地の賃借料を低く設定できるため、所得の移転が大きく実現できる。
・相続時、小規模宅地の特例(最大50%減)が可能
デメリット
・地主の相続税評価額の評価減が権利金方式等に比べて小さい
⑤ 使用貸借方式
使用貸借とは、目的物の貸借に際して、使用の対価の収受がなく無償であるものをいいます。民法上、使用貸借は、借主は借用物の通常の必要費を負担するとされていますので、土地の固定資産税相当額以下の地代の場合は、使用貸借とみなされます。
<要件>
・土地の賃貸借契約書に、将来借地人が土地を無償で返還することを記載する
・「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出する
<パターン別課税関係>
借地人(不動産管理会社) |
地主(個人) |
|
借地権設定時 |
課税関係なし |
課税関係なし |
地代の額 |
零から固定資産税相当額 |
|
地代の取扱い |
損金の額に算入 |
不動産所得の収入金額に算入 |
相続税評価額 |
(株価計算) 零 |
自用地評価額 |
メリット
・土地の賃借料が不要のため、所得の移転は最大限可能
デメリット
・地主の相続税評価額の評価減ができない
以上、5パターンでの課税関係を検討してきました。この中で、不動産管理会社の節税対策に最も適している方式はどの方式でしょうか。既にお気づきの方も多いかもしれませんが、④無償返還方式が最も適しているとされています。
地主側と不動産管理会社側の双方にメリットがある方法といえますので、まずは無償返還方式を検討するべきでしょう。