国際税務Vol.53 不相当に高額な役員報酬~適正な役員報酬とは~
不相当に高額な役員報酬~適正な役員報酬とは~
国際税務Vol.53
こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。
みなさん、ある味噌会社が役員報酬の額を巡り争っていることをご存じでしょうか?
京都にある味噌会社で、役員3名に支給した約23億円の役員給与に「不相当に高額な部分の金額」があるか否か等を巡り争われた事件について、東京地裁は原告の請求を棄却しました(令和2年(行ウ)第456号)。
少し調べたところ、この会社は中国などで有名なようです。
社長が、1990年代に25歳単身で中国・大連に進出し、日本より大幅に安い大豆や米、塩などを使い、味噌関連製品を作り始めました。大連のインフラは未整備でトラブルは絶えなかったようですが、1990年代後半に軌道に乗せました。 1980年代後半に社長が先代から経営を引き継いだときに年商は約2億円に満たない状況だったようです。それが2008年ころには企業グループ売上げで約200億円を超えるまで成長しています。
現在この企業グループは海外6カ国に8工場、26法人を展開しているようです。
さて争いの経緯です。
社長はベトナム事業に弟を専念させるため月2億5000万円の役員報酬を提示し、2015年12月から4カ月で10億円を支払いました。社長自身も2015年10月からの1年間、月5000万円、年間6億円の役員報酬を得ました。 国税当局は2018年、この会社の税務調査を実施した。
その結果、2013年~2016年の4年間、社長と弟ほかに支払われた役員報酬22億7800万円余りのうち、約19億2700万円分を「不相当に高額」と指摘し、法人税約3億8,500万円の課税処分を行ったものです。
法人税法は34条2項で、役員給与のうち「不相当に高額な部分の金額」は損金に認めないとしています。「役員報酬」を増額して法人所得を減少させ、法人税が著しく減少することを認めない税制となっています。
社長らは裁判で、当該会社は国が課税処分に際して分類した卸売業でなくファブレス事業に該当すると主張しています。ファブレス事業とは「倉庫・在庫管理システムを持たない」事業形態です。アップルやNIKEなどが有名です。
当該会社の概要は、社員0人、社長らを含む役員3人で8年目に年商27億円超という会社で、技術開発・商品開発を行うが、生産施設・倉庫等は持たず、海外に製造委託するという仕組みの会社でした。
社長はベトナム事業を有望と判断し、高額な役員報酬を払ったことも妥当と主張し、国税当局と全面的に争っていました。
しかし、2023年3月23日東京地裁は原告の請求はいずれも理由が無いと結論づけ、訴えを棄却しました。原告側は「不当な判決」として控訴しています。
「東京地裁は判決で、「反復継続的に仕入れ・販売することによって売上総利益が生じていることからすると、原告の主たる事業は(中略)『卸売業』に該当する」と認定した。 原告側は、当該会社は「卸売業の機能である調達機能、販売機能、物流・保管機能、金融・危機負担機能、情報提供・サポート機能のいずれも有していない」と主張していた。 これに対して、判決は「金融・危機負担機能については不明」としつつ、他は「機能を有していた」と退けた。 また、ベトナム事業については「収益は生じていない」ことを重要視。弟の「赴任が具体化せず、ベトナム新規事業再開のめどが立っていない状況において月2億5000万円もの給与の支給を(中略)続けるということは、企業の意思決定としておよそ合理的なものとはいい難い」とした。(弁護士ドットコムニュースより抜粋)」
この裁判のニュースが流れ、「なぜ法人税率より所得税率が高いのに国税当局は、不当に高額などと否認して争うのか」「給与として認めて高い所得税とればいいじゃないか」などのコメントがあふれていました。
私も詳しい裁判内容はわからないので、断定できませんが社長兄弟は「非居住者」ではないかと推測しています。
弟さんは上記で「赴任が具体化せず」とあり日本にいるのかベトナム以外の外国にいるのかわかりませんが、社長は海外に住んで32年間とある番組で発言しておりほぼ間違いなく「非居住者」と思われます。
その場合、所得税率は超過累進税率ではなく、いくら役員報酬を支払っても20.42%で完了します(
所法161 ①十二イ、 164 ②、 169 、 所令285 ①一)。住民税も支払われません。
「居住者」と判定できれば高額な所得税を払ってもらえたのでしょうけれど、おそらく「居住者」であると認定するだけの総合的な事実が無かったので、国税当局としては役員報酬が不相当に高額として「役員報酬」を否認することで法人税を徴収するという方法を取ったのでは無いでしょうか。
しかし、非居住者が事実であれば、適正な納税をしているわけですから所得税上は何も問題はありません。この裁判の根本的問題は同業種の役員の支給状況などを踏まえてお国が「不相当に高い」と民間の役員の報酬金額に口を出すと言うことだと思います。あまりにも昭和時代の護送船団方式の考えに基づく税法であり、前時代的で現代の経営にそぐわない制度となっていると感じます。
世界へ進出したり、イノベーションをおこす企業経営者の意欲をそぐような税制は日本の成長を止める事になりかねません。
またこのような役員報酬の不透明な税制は外資系企業の外国人役員には、到底納得のいくものではありません。
これでは「Why Japanese people?」と言われても仕方が無いですね。