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国際税務Vol.52 一時帰国者の源泉徴収もれに注意

一時帰国者の源泉徴収もれに注意

国際税務Vol.52

皆様こんにちは。

 

コロナ禍において移動に制限がある中、海外出向者をめぐる税務は複雑化し、慎重な対応が求められています。税務当局も目を光らせており、追徴課税が公になった事例があります。

 

 新型コロナの感染が広がりつつあった2020年春以降、その企業はアジアや欧州などの現地法人に出向していた従業員数百人を一時帰国させ、従業員は帰国中も現地の会議にリモートワークで参加するなど海外の業務に携わっていました。その間の給与は出向元の日本法人が支払っていましたが源泉徴収を行っていませんでした。

 

 通常、1年以上の予定で日本を離れ、海外赴任している人は「日本の非居住者」に該当し、日本の所得税法では、非居住者は国内源泉所得のみ日本で課税の対象になり、国外源泉所得(すなわち、国外において勤務した部分に支払われる対価)は日本では非課税となります。そのため、海外赴任中に国内において支払われる給与は、日本法人の役員が海外赴任する場合等一定の場合を除き、日本では非課税となります。

 

一方でコロナによる一時帰国のように海外赴任者が一時的に帰国し、その間日本で勤務を行うと、日本で支払われる給与のうち国内勤務期間相当分は「非居住者の国内源泉所得」として課税の対象になります。すなわち、リモートで「海外勤務」をしても、実際に働いた場所が日本であれば日本で納税しなければならないということになります。

 

非居住者の国内勤務対応分については、赴任国との間の租税条約に基づく短期滞在者免税制度がありますが、この制度の適用を受けるためには一定の要件を満たさなくてはなりません。例えば、汎用的な租税条約の例を見ると、

・報酬の受領者が当該年を通じて合計183日を超えない期間当該他方の締結国に滞在すること。

 

・報酬が当該他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われるものであること。

 

・報酬が雇用者の当該他方の締約国内に有する恒久的施設によって負担されるものでないこと。

*ここで言う「他方の締約国」とは日本を指します。

 

相手国によって細かいルールが異なるので都度確認が必要となりますが、一般的には上記の要件となり、日本法人から給与が支給されている場合は適用を受けることができません。

 

一般的にも短期滞在者免税はわりと知られてはいるものの、日本に滞在する日数が183日を超えていなければ大丈夫というわけではないので注意が必要です。

 

新型コロナウィルス感染症の流行は当分おさまりそうにないものの、国によっては一段落の様相を呈しています。コロナ禍における特殊な税務問題に頭を悩まされるのも一段落と思いきや、ロシアーウクライナ問題という新たな火種が発生しています

 

ロシアやウクライナに赴任している社員を本社命令で一時帰国させ、現地の業務を日本で行っているものの日本において給与を支払えば、前述のとおり日本で支払われた給与に対して源泉徴収が必要になります。

 

日本の出向元法人、海外の赴任先の法人がそれぞれ自国の税金だけしか見ていないと、国を跨いだ勤務の課税問題に対応しきれないため、租税条約や相手先の税制を見据えた総合的な管理が必要となってきます。