国際税務Vol.50 海外不動産の売却~売り時はいつか?~
海外の不動産の売却~売り時はいつか?~
国際税務Vol.50
こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。
2022年は世界中のインフレーションにより各国の株価は大きく下落しました。
住宅価格も高騰により需要も減少し、不動産市場もかなり厳しいですね。
国内外問わず売却を考えておられるお客様の声も聞いています。
今回は海外の不動産の売却の際の税務上の注意点を見てみましょう!
海外の不動産の売却
日本の居住者※注は、原則として国内で生じた所得及び国外で生じた所得のいずれについても、日本で課税されることになります。
従いまして、日本の居住者が海外の不動産を売却したことにより得た譲渡益に対しても、国内にある不動産を売却した場合と同様に、課税されることとなります。
この場合、外国通貨で行われた不動産の譲渡所得の金額および不動産を取得した際の取得価額の金額は、原則として、その取引日における対顧客直物電信売相場(T.T.S)と対顧客直物電信買相場(T.T.B)の仲値(T.T.M)によることとされています。
ただし、不動産を売却して外国通貨を直ちに本邦通貨とした場合には、対顧客直物電信買相場(T.T.B)で、本邦通貨を外国通貨として直ちに海外不動産を取得した場合には対顧客直物電信売相場(T.T.S)で譲渡所得を計算することができます。
(注)「居住者」とは
日本国内に住所を有しているか、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する人をいいます。
国外での課税
海外不動産の譲渡所得については、不動産所在地国においてもその国の法令により課税されます。つまり、日本居住者は日本と外国の二重課税となることが多いです。
例えば米国の場合
米国から見て非居住者の不動産売却については無申告による徴税漏れを防ぐため、譲受人は売却金額の一定額を源泉徴収する義務があります。
米国不動産の譲渡の場合、譲受人は原則その対価の金額について連邦税を15%源泉徴収する必要があります。但し、譲受人が住居として使用するために取得した財産で、当該財産の対価の金額が100万ドルを超えない物件については15%ではなく10%となります。
※源泉徴収が免除される場合
譲受人が住宅として使用するために取得したもので、かつ、その不動産の売却価格が30万ドルを超えない物件については、源泉徴収の必要はありません。
そのほか各州の税法によっては、州の源泉徴収もありますので、不動産仲介業者または米国の会計士にご確認ください。州によって法律が違うというのが日本との大きな違いですね。
外国税額控除
上記で述べたように、日本およびその外国の双方で二重に所得税が課税されることとなります。そのような二重課税を調整するために、片方の国の所得税額からもう一方の国の所得税額を一定額差し引くことができます。これを外国税額控除といいます。
外国税額控除の対象となる外国所得税は、個人の所得を課税標準とする税(控除対象外国所得税)のみです。
ただし全ての外国税が対象になる訳ではありません。そうすると売却対価から徴収される源泉徴収税は対象外ではないのかと思われるかも知れませんが、所得に代えて収入金額に一定割合を掛けて源泉徴収される税は控除対象外国法人税になると施行令221条に明記されていますのでご安心ください。
ここで注意しなければならないのは、外国税額控除の適用を受けた年の翌年以降にその外国所得税が減額された場合は、一定の調整が義務付けられていることです。
居住者に係る外国税額控除の適用を受けた年の翌年以後7年内に、その外国所得税額が減額された場合においてその減額されることとなった日の属する年分における外国税額控除等の計算は、次の1~3の区分のとおりです。
1 その減額されることとなった日の属する年(以下「減額に係る年」といいます。)において納付することとなる外国所得税額(以下「納付外国所得税額」といいます。)からその減額された外国所得税額(以下「減額外国所得税額」といいます。)に相当する金額を控除し、その控除後の金額につき外国税額控除を適用します。
2 減額に係る年に納付外国所得税額がない場合または納付外国所得税額が減額外国所得税額に満たない場合には、減額に係る年の前年以前3年内の各年の控除限度超過額から、それぞれ減額外国所得税の全額または減額外国所得税のうち納付外国所得税額を超える部分の金額に相当する金額を控除し、その控除後の金額について外国税額控除を行います。
3 減額外国所得税額のうち上記1および2の外国税額控除の適用額の調整に充てられない部分の金額は、外国所得税額が減額された年分の雑所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。
逆に居住者が外国所得税額につき居住者に係る外国税額控除の適用を受けた場合において、その適用を受けた年分後の年分にその外国所得税額の増額があり、かつ、居住者に係る外国税額控除の適用を受けるときは、増額した外国所得税額は、その増額のあった日の属する年分において新たに生じたものとして居住者に係る外国税額控除の計算を行います。
米国の場合は、源泉徴収されて米国の確定申告により税額の調整が行われることになりますので、外国税額控除の調整は必要となります。
居住用不動産の特例
上記の外国税額控除の前に、不動産の譲渡所得を計算します。
その際に、国外にある不動産であっても要件を満たせば、居住用財産の譲渡所得の特別控除(最高3000万円まで)を受けることができます。
(措置法35①、措置令23①、措置令20の3②)
条文には特に国内の不動産に制限している文言はありません。
ただし、複数の家屋を保有している場合には、自宅と認められない場合もありますので、適用可否の判断には要注意です。
為替もかなり振れ幅がある状況ですし、金利が上昇する局面では不動産も株価も下落する可能性が高いので、そろそろ売り時が来ているのかも知れませんね。
国内不動産の売買の注意点
上記に記載の米国不動産の譲渡における源泉徴収制度と同様に日本でも、非居住者が日本に保有する不動産の譲渡による対価(1億円以下で自己又は親族の居住の用に供するために譲受けた個人から支払われるものを除く)については10.21%の源泉徴収を行わなければなりません。
非居住者は、売却年の翌年において確定申告を行い還付を受けることになるでしょう。
したがって、不動産購入者は売主がどこの(国の)誰かはよく確認してくださいね。売主が非居住者と知らずに購入者が源泉徴収していなかったとしても、税務署から指摘される可能性が高いです!