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相続・事業承継Vol.50 相続税の納税資金で「金庫株」を活用

相続税の納税資金で「金庫株」を活用

相続・事業承継Vol.50

こんにちは!

SUパートナーズのもう一人の阿部です。今回は、「金庫株」についてお話したいと思います。

先代経営者が、苦労し残した会社を相続するケースは、実務をしているとたびたび遭遇します。

中には、後継者がいないため会社をたたむ(清算する)場合も見受けられます。

会社経営に携わったことがない、奥様やお子様には、会社経営はハードルが高いと感じられるのは無理のないことです。

私も、この数年で、賃貸不動産の管理をしている会社を、2件ほど解散し清算しています。

実は、この2件とも会社の過去からの利益の蓄積額(利益剰余金)がかなりの金額になっていました。そのため、株式の相続税評価額も高く、相続税も多く納める結果となりました。

会社には、ラッキーなことに、預金が潤沢にありました。不動産の賃貸や管理をしている会社は、経営者に役員報酬を払っても、赤字になることは、あまりないと思います。損益や収支の予測が立て易いですから・・・。

相続税は、相続が開始してから10か月以内に納めなければなりません。会社から、相続人がお金を借りるという方法もありますが、一定の金利を支払う必要がでてきます。

そこで登場するのが、「金庫株」です。

(1)金庫株とは?
「金庫株」は、会社が自分の会社の株式を買い取り、金庫に保管することからその名前が由来しています。「金庫株」は、法律的には「自己株式」といいます。

昔は、原則「金庫株」の保有は、商法で禁止されていました。それが、平成13年10月の改正商法により原則「金庫株」の保有(取得・保有・処分)が自由となりました。

 

(2)税務の原則的取扱い

税務上の原則的な取扱いを見ていきましょう。

社長個人が生前元気な時に、自分の会社に「金庫株」を売った場合です。

会社の、税務上の利益の累積額である、利益積立金(法人税別表5(1)Ⅰ右下の金額)のうち、売った株式数と同じ割合の金額が配当金とみなされて、他の所得と合算され、総合課税されます。要は、金庫株の買い取りは、会社の利益を社長個人(株主)に分配したのと同じと考えています。

総合課税されるということは、累進課税の適用となり、高額の所得(課税所得4,000万円超)の方は、最高税率の所得税45%・復興税0.945%(=45%x2.1%)住民税10%合計55.945%かかることになります。

 

<例>
個人の課税所得5000万円の社長が、1株100万円の利益積立金額、5万円の資本金等の全株式200株を所有している場合に、10株を自分の会社に売ったケースを見てみましょう。

① 配当所得100万円x10株=1,000万円
①に対する税金 1,000万円x55.945%=559万4,500円(=約560万円)

② 譲渡所得 5万円x10株-5万円x10株=0円

③ 税金Total:①+②=約560万円 (配当控除適用前)

 

(3)税務の例外的取扱い

 税務上の例外的取扱いです。

<例>
社長が亡くなり、社長の相続開始後3年10ヶ月以内に、社長の相続人である長女が、その会社に、10株売ったケースを見てみましょう。

~相続内容~
・相続した株式200株(1株当たり利益積立金額100万円、資本金等5万円)
・相続した株式200株の、相続税評価額 1億円(1株50万円)
・長女の相続財産全部で10億円(債務控除前)
・長女に課税された相続税3億円

 

① 配当所得  みなし配当が発生しないため 0円

② 譲渡所得 
(100万円+5万円)×10株-(5万円×10株+150万円*注1)=850万円
②に対する税金  850万円x20.315%*注2=172万6,775円(=約170万円)

③ 税金Tota:①+②=約170万円

 

*注1 相続税額の取得費加算の特例

 長女の相続税額3億円 ×(譲渡株式の相続評価額50万円x10株 / 長女の相続財産10億円)=150万円

*注2 申告分離課税

所得税15%+復興税0.315%(15%×2.1%)+住民税5%=20.315%

 

(4)まとめ

「非上場株式」を相続した相続人は、現金化が難しい財産のため、相続税の納税資金を調達するのに困ってしまいます。

そこで、国は相続開始後3年10ヶ月以内に「金庫株」として、相続人がその会社に譲渡した場合には、2つのメリットを付けました。

金庫株メリット①
配当所得による超過累進税率の適用をしないで譲渡所得の申告分離課税(20.315%)だけで済ませてくれることです。

金庫株メリット②
売った株式の原価(取得費)に、その売った株式について、相続した時に負担した相続税を加算してくれることです。

上記(2)のケースですと、配当所得の課税を受けてしまうと、累進税率により手取りが半分以下になってしまうことになりかねません

 

相続した会社について、清算を予定している場合にも、まずこの特例を利用し、会社が「金庫株」を取得します。

その後に、会社を解散し清算するのがお勧めです。

 会社を清算しない場合でも、会社の現預金を、個人の現預金に一部変えるには、相続開始後310ヶ月以内は、またとない機会でもあります。

ただし、会社が「金庫株」を買い取る場合に、限度額が会社法で決められています。

その点ご注意ください。