国際税務Vol.48 国外中古建物の損益通算特例
国外中古建物の損益通算特例
国際税務Vol.48
こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の木下です。
今回は個人所得税における国外中古建物の損益通算特例となります。
個人の節税商品として海外の中古建物が人気でしたが、税制改正により、節税スキームが封じられました。
国外中古建物の損益通算に制限が加えられたもので、売却の際にも影響があります。どういった節税商品であったかも含め、確認していきたいと思います。
中古建物の減価償却費
中古建物の減価償却費を計算する際の耐用年数は、使用可能期間の見積もりが困難な場合、簡便法により算定した年数によることができます。
簡便法による償却期間は、下記のようになります。
簡便法を利用することにより、新築建物よりも短い期間で減価償却を行うことができます。
①法定耐用年数の全部を経過した資産
法定耐用年数×20%
②法定耐用年数の一部を経過した資産
(法定耐用年数―経過年数)+経過年数×20%
節税商品であった国外中古建物
米国など国外の建物は、日本所在のものと比べ、木造でも長持ちしやすいものが多く、価値が下がりづらい。また、土地建物を一括購入した際の建物の金額割合が高いなど特徴があります。
そのため、
①中古建物の経過年数が長いため、短期間で減価償却費を多く計上できるこよにより赤字となりやすい。
②中古建物に係る不動産所得以外の収入で多額の利益が見込まれる(累進税率が高くなる)際に①による赤字と相殺する。
③不動産売却時も(累進税率よりも)低税率であることが多い。
等の理由により節税商品として人気がありましたが、現在は税制改正により制限がかかっております。
国外中古建物の制限
令和3年以降、国外中古建物に係る不動産所得の金額が赤字の場合、当該赤字の金額のうち、簡便法等により計算した減価償却費相当額は生じなかったものとみなされます。(対象となる減価償却費分の費用計上は、所得計算上無かったものとされます)
そのため、対象となる減価償却費相当額の費用計上が除かれることにより赤字が計上されず、上述する多額の利益との相殺ができなくなり、個人で国外不動産を所有することによる節税メリットが減少しました。
また、令和3年より前に取得していた建物も上述の損益通算制限の対象となるため注意が必要です。
複数の国外中古建物
国外中古建物を所有している場合、物件ごとに収入金額、必要経費、減価償却費などを青色申告決算報告書等に記載をする必要があります。
また、複数の物件が赤字となる場合には、生じなかったものとみなされる減価償却費累計額を各物件に按分する必要があります。
国外中古建物の売却
国外中古建物を売却する際も注意が必要です。
通常、不動産の譲渡所得の計算は
譲渡価額―(※取得費+譲渡費用)となります。
(※)取得費=取得価額―減価償却累計額
国外中古建物の場合、赤字の金額のうち、簡便法等により計算した減価償却費相当額のうち生じなかったものとみなされた金額を取得費に加算する必要があります。
(※)取得費=取得価額―減価償却累計額+生じなかったものと見なされた減価償却費相当額
法人への移転
国外中古建物を個人で所有するメリットは減少しております。
また、米国建物などを所有している場合、将来的に米国等の遺産税やプロベート手続きが必要となります。
これらの対策の一つとして、国外中古建物を日本法人に移転する手法があります。
法人税においては、国外中古建物に対する損益通算の制限はありませんので、国外中古建物に係る赤字を損益通算することができます。
ただし、法人税は累進税率ではありませんので、改正前の所得税と比べて税務的なメリットが小さいです。
また、譲渡所得の低税率もありませんので、個人所有の方が有利になることも考えられます。
その他、様々なメリット・デメリットがありますので、移転の際には慎重に検討する必要があります。