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相続・事業承継Vol.48  相続税と贈与税の一本化はどうなる?

相続税と贈与税の一本化はどうなる?

相続・事業承継Vol.48

こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の溝口です。

令和3年度税制改正大綱で「相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直す」との検討方針が示されたことから、令和4年度税制改正で具体的な改正が示されるのではないかと注目がされていましたが、具体的な改正項目はありませんでした。

しかし、令和4年度税制改正大綱には、今後の税制の見直しとして「相続税・贈与税のあり方」が示されており、引き続き相続税・贈与税の一本化が検討されています。

そこで今回は令和4年度税制改正大綱で示された「相続税・贈与税のあり方」を確認し、相続税・贈与税の一本化の動向を確認してみたいと思います。

 

(相続税・贈与税のあり方)

 経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直しとして、「相続税・贈与税のあり方」を次のように示しています。

高齢化等に伴い、高齢世代に資産が偏在するとともに、相続による資産の世代間移転の時期がより高齢期にシフトしており、結果として若年世代への資産移転が進みにくい状況にある。

・高齢世代が保有する資産がより早いタイミングで若年世代に移転することになれば、その有効活用を通じた経済の活性化が期待される。

・一方、相続税・贈与税は、税制が資産の再分配機能を果たす上で重要な役割を担っている。高齢世代の資産が、適切な負担を伴うことなく世代を超えて引き継がれることとなれば、格差の固定化につながりかねない。

・このため、資産の再分配機能の確保を図りつつ、資産の早期の世代間移転を促進するための税制を構築していくことが重要である。

・わが国では、相続税と贈与税が別個の税体系として存在しており、贈与税は、相続税の累進回避を防止する観点から高い税率が設定されている。このため、将来の相続財産が比較的少ない層にとっては、生前贈与に対し抑制的に働いている面がある一方で、相当に高額な相続財産を有する層にとっては、財産の分割贈与を通じて相続税の累進負担を回避しながら多額の財産を移転することが可能となっている。

 

・今後、諸外国の制度も参考にしつつ、相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化防止等の観点も踏まえながら、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める。

 

・あわせて、経済対策として現在講じられている贈与税の非課税措置は、限度額の範囲内では家族内における資産の移転に対して何らの税負担も求めない制度となっていることから、そのあり方について、格差の固定化防止等の観点を踏まえ、不断の見直しを行っていく必要がある。

 

(資産移転時期の選択に中立的な税制とは?)

 「相続税・贈与税のあり方」で示されている資産移転時期の選択に中立的な税制とはどのようなものでしょうか。

財務省は、説明資料(資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築等について)令和2年11月13日の中で、「資産移転の時期の選択に中立的」とは、資産の移転の時期(回数・金額含む)にかかわらず、納税義務者にとって、生前贈与と相続を通じた資産の総額に係る税負担が一定となることと示しています。

 

(暦年課税は資産移転の時期に中立的ではない?)

 相続税と贈与税は、資産の再分配機能として、一部の富裕層に資産がかたよらないようにする役割があるとされています。なお、贈与税は、相続税の税負担の減少を防止する観点から高い税率が設定されています。

 しかし、現行の暦年課税制度では、相続で適用される税率を下回る範囲で財産を分割して贈与することで、相続税の税負担を軽減し、財産を移転することが可能となっており、また、暦年課税で相続時に持ち戻されて課税の対象となるものは、死亡前3年以内の贈与に限られています。

 このようなことから、現行の暦年課税制度は、生前贈与と相続では税負担が大きく異なることもあり、資産移転の時期に中立的でないと財務省は考えています。

 

(参考とされる諸外国の制度とは?)

 一定期間の累積贈与額と相続財産額に対し一体的に課税され,資産移転の時期の選択に中立的であるものとして、アメリカ、ドイツ、フランスの制度が参考に挙げられています。

  • アメリカ

贈与税と遺産税は統合されており、一生涯の累積贈与額と相続財産額に対して一体的に課税

  • ドイツ・フランス

贈与税と相続税は統合されており、一定期間(ドイツ10年、フランス15年)の累積贈与額と相続財産額に対して一体的に課税

 

(今後はどうなる?)

 国民感情を考慮すると、いますぐ相続税と贈与税が一本化される可能性は低いと考えています。しかし、税制改正大綱で現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すとされていることから、暦年課税よる相続時の持ち戻しを現行の3年以内から10年以内や15年以内とすることや、暦年課税を廃止して相続時精算課税のみとするなど、近い将来相続税と贈与税は一本化されると考えておくべきではないでしょうか。

 このようなことから、生前贈与での相続対策をご検討されている方は、お早めにご検討いただくことをおすすめいたします。

 今後も、相続税・贈与税の見直しの行方について注目をしていきたいと思います。