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国際税務Vol.42  米デジタル課税について-税逃れは防止できるか-

米デジタル課税について

-税逃れは防止できるか-

国際税務Vol.42

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。

 

今回はデジタル課税についてのお話です。

 

OECDが2021年7月1日に139か国・地域が参加した協議において132か国が経済のデジタル化に対応した国際的な法人課税ルールについて、「少なくとも最低法人税率を15%」とすることに合意したと発表しました。その後7月9,10日に開催されたG20においても共同声明が採択され、国際課税の歴史的な分岐点と評価されています。

 

100年に一度の課税方法の変更となるかもしれません。

PE(恒久的施設)などの拠点がなくてもSNSやインターネット上のサービスにより、国境など関係なく売上を上げられる時代となってからかなり経ちます。

思い起こせば20年前の2000年初頭は、まだまだインターネットというものが胡散臭いと言われ、ホームページを作る企業のほうが少ない時代でした。

しかし、瞬く間に社会へ浸透していき、消費者は便利になる一方で、課税の現場においてはかなり問題が生じていました。

税法は常にビジネスの後追いですから先端のITに追いつけないまま来たわけです。

 

しかし、今まさにグーグルやアップルといった巨大IT企業を主なターゲットとした世界的な国際課税の包囲網が作られようとしています。

 

大枠合意

OECDで合意されたポイントは下記になります。

 

デジタル課税について

・対象企業

売上高200億ユーロ超(約2兆6000億円)、かつ、利益率10%超多国籍企業

(注)条約発効から7年後に各国の対応状況を評価したうえで、売上高の基準を100億ユーロ(約1兆3000億円)に下げる予定

・2022年に多国間条約、23年実施

・売上高の10%を超える利潤について20~30%を市場国に配分

・独自のデジタルサービス税は廃止へ調整

 

最低法人税率について

実効税率で15%以上

・2022年に国内法改正、23年に実施

 

10月に最終合意予定で協議していくことになっています。

 

しかし、アイルランド、ハンガリー、エストニア、ナイジェリアなどの一部の国が反対を表明しておりますので、どのようになるか目が離せません。

特に大きな影響を受けるアイルランドは10月までに国民投票を行うとの報道もありました。

 

今回の改正は、米IT企業などを中心に約100社を対象として考えられています。

残念ながら日本では対象となる企業はあまりないとのことです。対象となるくらい世界で元気に活躍する日本企業がもっと多く出てもらえるとうれしいのですが。

ちなみに銀行や保険会社は対象外となります。

 

独自のデジタル課税

このようにデジタル課税について世界的に検討されるまでは、各国(主に欧州)が独自に課税を考えていました。

英国、フランス、イタリア、オーストリア、スペイン、チェコ共和国、ポーランド、トルコ、インドの9カ国では、すでにDST法(デジタル課税の法案)を制定しており、それ以外の国でもDST法案は審議中か審議保留の状況でした。

 

【イギリスの例】

ソーシャルメディアサービス、検索エンジンやオンライン・マーケットプレイスを提供する企業のうち、収益が5億ポンド(約655億円、1ポンド=約131円)超、うち2,500万ポンド超が英国のユーザーからもたらされる企業を課税対象とします。英国ユーザーから得られた収益のうち2,500万ポンドを超えた分に対し2%が課税されます。

 

しかし、欧州委員会は7月12日、国際法人課税の新ルール成立に注力するため、新たなデジタル課税の導入を先送りすると表明しました。

 

またインドでは、下記の税制を実施しており、合意を受けどのような対応を取るのかは現段階で情報を入手できていません(2021年7月14日時点)

【インドの例】

インド政府はデジタル課税である平衡税の課税範囲を明確化して4月1日から施行しています。非インド法人の他社のオンラインサイトに出品するかたちでインド市場向けにデジタルビジネスを行う非居住者が対象となり、同サイトでの電子商取引の供給またはサービス対価に2%の平衡税が課せられることになります。

 

このように現在は目まぐるしく課税状況が変化しており、対象となる企業も各国が独自の税制を制定し課税されるよりは、統一された税制で安定した状況を望んでいると考えられます。

もし各国が独自税制となれば計算する企業側も相当な労力(税計算コスト)がかかりますから、世界的に同一の内容にしてほしいでしょう。

 

米国の反応

バイデン大統領は「世界経済を労働者と中間層により公平なものにする重要な一歩だ」「米国自身の法人税制改革が不可欠だ」、また「多国籍企業は米国内外で得た利益を低税率国に隠し、公平な負担を回避することができなくなる」と合意を歓迎しています。

しかし、財務長官のイエレン氏は、米国でデジタル課税を導入するには上院で3分の2の賛成が必要であり、与野党の勢力が拮抗しているため承認難航もありえると発言しています。

 

米国に限らず大枠合意したものの、詳細な制度を各国間で合意することや各国の国内で合意していくためには、まだ時間を要するように感じます。

 

課税イメージ

現在わかっている情報による課税のイメージは、対象企業のサービスの利用者がいる国が利益率10%を上回る利益の20~30%に課税できるようにする予定です。

たとえば、利益率が20%だとして全世界で2兆円の利益がある企業なら、基準を超える10%分の利益の1兆円の20~30%(つまり2000億円から3000億円)を売り上げに応じて関係各国で配分するイメージだと想定されます。

米財務長官のイエレン氏は、この課税制度は条約で行われると発言しています。

 

絶好調

2021年の2Q決算が次々と発表されましたが、いずれも好決算発表となりました。

(2021年8月2日時点)

Alphabet(Google)純利益185億2500万ドル(約2兆円)(前期比270%)

Apple 純利益217億4400万ドル(約2兆3900億円)(前期比190%)

Facebook 純利益103億9400万ドル(約1兆1400億円)(前期比201%)

Amazon 純利益77億7800万ドル(約8500億円)(前年同期比150%)

 

これはすべて2021年4~6月の3か月間の純利益です。恐ろしい利益ですね。つまり、順調にいけば年間この4倍の純利益が出るわけです。その利益にほとんど税金がかからなかったというのは、どう考えても不平等感が否めません。

 

業績が好調の一番の要因は、新型コロナウイルスの世界的な流行に伴う「巣ごもり需要」を捉えたということです。

当面はコロナの影響も続きますので、一定の好業績を出すのではないでしょうか。

 

各国は今すぐにでも課税したいでしょうが、デジタル課税制度の話し合いが最短で進んだとしても2023年からです。

 

デジタル課税制度が具体的にスタートするまでは、GAFAはこの世の春を謳歌し、次の節税の一手を考えているのかもしれません