国際税務Vol.37 令和2年税制改正 国際課税関係の改正(ソフトバンク税制)
令和2年税制改正 国際課税関係の改正(ソフトバンク税制)
国際税務Vol.37
皆さん、今年は猛暑でしたね。。
外でマスクをしていると体感温度が50℃くらいに感じました。熱中症でお亡くなりになった方もコロナより断然多いのですが、なぜかコロナだけが特別怖いものに感じるのはなぜでしょうね??
さて8月初旬に『ソフトバンクが400億円の申告漏れ』とのニュースが出ました。
ソフトバンクと言えば、一般の方には、「携帯の会社」「孫さん」「ホークス」などのイメージだと思います。
一方、税理士にとっては「アグレッシブな節税を行う会社」というイメージです。
国税とソフトバンクは、これまで因縁的な対決をしてきています。
大きなものをあげますと、
・2010年のヤフーとIDCの合併による繰越欠損金540億円の否認
・2016年までの4年間でタックスヘイブン税制による939億円の所得漏れ
ここまでは国税が勝利していました。
これに対してソフトバンクが2018年の海外子会社株式の譲渡損失の創出(2兆円)というとんでもない金額の節税を行いました。
その後、処理の計上時期で争い4300億円の課税所得の修正をしています。
このように「やられたらやり返す!10倍返しだ!!」といったドラマのように対決は続いています。
上場会社でこれだけ税金関係のニュースが出る会社も他にはありません。
今回はこの譲渡損失の規制についての令和2年税制改正(いわゆるソフトバンク税制)を見ていきたいと思います。
巨額の譲渡損失
まず改正の原因となった事実を確認しましょう。
1、ソフトバンクは,2016年に英国アーム・ホールディングスを3.3兆円で買収
2、その後アーム・ホールディングスから約2.6兆円の現物配当などをほぼ無税(一定の外国子会社から配当金は益金不算入となります)で受け取る
3、多額の配当によりアーム・ホールディングス株式の価値を下げた上で,自社保有から,グループ内で組成したファンドに移管しました。
その際,生じた約2.5兆円の株式譲渡損失について税務調査で争いになりました。
資本取引による抜け穴
何が問題になったかといいますと,配当などにより,子会社から親会社に現物配当などがあっても,利益の配当である限り,親会社が保有する子会社株式の価額は取得時の簿価のまま据え置かれます。
しかし、子会社の実際の価値は多額の配当により下がることになり、株式の含み損が生じている状態になります。
その後,この子会社株式を適正売却すると,含み損が実現(譲渡損失の計上)します。
つまり、ソフトバンクグループ内の実態は変わらないが、資産を移動させることによって巨額の損失を生じさせたということになります。
慌てた財務省
あまりにも巨額の節税であったため、財務省も慌てて個別に否認する税制改正を行いました。
この国際的な譲渡損失を規制するため、法人が一定の支配関係にある子会社(大まかに言いますと外国法人や外資系内国法人を買収したケース)から、一定の配当を受ける場合、株式の帳簿価額からその配当額のうち益金不算入相当額等を減額するとなっています。
例外もあるが・・・
ただし、下記の適用除外規定があります。
- 配当を行う子法人が,その設立から現在の株主に所有されるまで,その発行済株式の90%以上を内国法人や居住者が有していれば,対象外としています。
つまり、通常の内国法人の子会社などは対象になりません。
②買収後に子法人で稼いだ利益を配当する分については,規制の対象外にしています。
③買収してから10年(長い!)経過していれば,租税回避目的での配当と言えないだろうということで適用除外となります。
④年間配当が2,000万円以下の場合は,少額のため適用除外となります。
適用除外を利用して節税を考える方もいらっしゃるかもしれませんが、この規定とは別に法人税の伝家の宝刀である「同族会社の行為計算否認規定」もあるため注意しましょう。
今後も国税とソフトバンクの対決は続きそうです。
何せこの譲渡損失額は約2.5兆円でしたから、まだ繰越欠損金は残っており、ソフトバンクからしたら今回指摘の400億円程度修正しても痛くも痒くもないでしょう。
秋からは新年度となり異動先で成果をあげようと調査官が調査を開始するので、「この恨みはらさでおくべきか~」と躍起になって取引を調査する場面が目に浮かびます。
行き過ぎた節税は、恨みを買うので注意しましょう!