相続・事業承継Vol.32 財産を守る!民事信託 -基礎編-
財産を守る!民事信託 -基礎編-
相続・事業承継Vol.32
皆様こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。
世の中「相続」の話題が溢れています。相続対策の手法も時代時代で流行りがあります。
平成初期のバブル時代は(今も?)借金して不動産に投資したり、
上場株式の売買が非課税(信じられますか?譲渡益は非課税だったのです)なうちに
プライベートカンパニーを作って会社に個人財産移しちゃえ!など流行っていたようです。
最近の流行りの一つに「民事信託(あるいは家族信託)」などと言われるものがあります。
ちなみにこの制度を実行しただけでは一切節税になりません!!
「それなら読まないでいいや・・・」となった人もいるでしょう。
しかし、知っておかなければ致命的なことになることがあります。
民事信託とは
まず、「信託」と聞いて「遺言信託というのが信託銀行にあったなぁ」
と思われた方も多いのではないでしょうか?
あれは商品名であって、信託ではありません。
信託銀行が遺言を預かって相続発生時に遺言通り財産整理を実行する商品で、
本来の法律的な遺言信託の機能はありませんのでご注意ください。
「信託」は、その名の通り財産を「信じて託す」という行為です。
「民事信託」の一つの使い方として、例えば、
・高齢なお父さん(委託者)の判断能力がなくなるリスクを考えて、
・お父さんの財産である賃貸不動産を息子(受託者)に託して、
・息子が賃貸契約や修繕の判断を行い、
・その賃貸不動産から得られる利益はお父さん(受益者)が受け取る、
などが出来ます。
このような場合、もちろん親子が協力しなければ出来ませんが、
目的に沿って信託を作っておけば、お父さんが判断能力を失ったとしても、
安心して財産を維持・向上させながら、お父さんのために活用できます。
ひいては自分が(息子が)相続する財産を守ることにもなります。
私の周りには、民事信託を知らなかったばかりに、
法定後見制度を利用したことで賃貸不動産の修理さえままならない方がいらっしゃいます。
民事信託が万能なわけではありませんが、
任意後見制度と組み合わせながら利用することで様々な課題を解決できることもあります。
利用する際のポイント
信託を利用するにあたってはいくつかのポイントをしっかり押さえながら作らなければいけません。
大きなポイントとしては
①目的の設定
②受託者の選定
③税務検討
④遺留分に対する配慮
⑤受託者義務
などが挙げられます。
①目的の設定
認知症対策なのか、あるいは相続発生時の財産のスムーズな移転なのかなど、
まず、相談者の目的がどこにあるのかをきちんと把握したうえで信託を設定する必要があります。
②受託者の選定
次に、財産を託す受託者の選定は、一番の悩みどころです。
家族のうち信頼できる人が何人いるのかということをしっかり考えていかなければなりません。
③税務検討
そして税務の面を考えておかないと、思わぬ課税を受けてしまいかねません。
上述の例の場合は「自益信託」つまり、財産を託す人(お父さん)自らが、その財産の利益も受け取る信託ですから、
贈与税はかかりません(もちろん不動産の登記費用はかかります)。
上述の例の場合、受託者である息子に不動産の名義が変わるのですが、息子のものになったわけではありません。
例えて言えば私たちが銀行などを経由して投資信託を買ったりしているのと同じで、
自分のお金を銀行にお願いして運用してもらっているのだけど、自分の財産であり、
そこからの利益に対する所得税なども自分で負担しなければなりませんよね。
それと同じです。
④遺留分に対する配慮
そして、信託を設定する際には、信託財産を取得する人とそれ以外の財産を取得する人との間で
遺留分の問題が発生しないかを考えながら信託を設定しなければ、
せっかく作っても後で親族間でもめてしまうことになりかねません。
⑤受託者義務
最後に受託者となる親族には、受託者の責任として財産の維持管理と運用のほか、事務手続きも発生してきます。
これらは専門家のサポートなしでは厳しいものになってきます。
したがって、それなりのコストもかかることになるため一定の財産規模でないと費用対効果が見いだせないことになります。
最後に
文中でも申し上げたように民事信託は万能ではありません。
したがって、信託を設定するのか任意後見を利用するのか、はたまた併用するのかも含めて、
早めのご相談をしていただくことが、結果としてご本人、ご家族にとって良い結果となります。