国際税務Vol.23 海外勤務と社会保障~年金受給で損をしないために~
海外勤務と社会保障
~年金受給で損をしないために~
国際税務Vol.23
こんにちは。
国際的企業においては外国へ派遣される人、外国から派遣される人が多数おり、
人事、税務、社会保険等の様々な問題が発生します。
特に社会保険は老後の生活保障に響いてくるため、深刻な問題となっています。
日本で働く外国人、海外で働く日本人はどのように対処すべきなのでしょうか。
さて今週は国際間社会保障がテーマのSUレターです。
原則
日本企業に勤務する日本人が海外に派遣された場合でも、
いずれは日本に戻り日本で年金を受け取ることを前提とすれば、
日本の厚生年金に加入したまま海外へ赴任することになります。
一方で派遣先の国においても現地の法令に基づいてその国の公的年金に加入することが強いられるケースがあります。
その逆もまたしかり。
海外の企業に勤務する外国人が日本に派遣された場合、原則厚生年金への加入が義務づけられますが、
いずれは自国に戻る前提のことがほとんどのため、自国でも公的年金を支払い続けることになります。
どちらにしても、派遣先の国で年金を支払っても将来老齢年金を受給できる可能性は低く、
掛け捨てのような状態になってしまいます。
このような問題を解決するために各国との間で社会保障協定が締結されています。
二重加入とならないための措置
まずは二重加入にならないようにとの措置があります。
相手国への派遣期間が5年を超えない見込みの場合、
当該期間中は相手国の法令の適用を免除し自国の法令のみを適用し、
5年を超える見込みの場合には、相手国の法令のみを適用することになります。
ただしこれは企業に雇用されている社員が派遣された場合の措置となります。
自分の意思で海外で就職活動をして現地で採用された場合、
この制度の適用を受けることはできないこととなります。
“掛け捨て”とならないための措置
次に“掛け捨て”とならないために保険期間の通算ができます。
両国間の年金制度への加入期間を通算して、年金を受給するために最低必要とされる期間以上であれば、
それぞれの国の制度への加入期間に応じた年金がそれぞれの国の制度から受けられるようにするという内容です。
例えば、日本の企業で2年勤務した日本人がアメリカへ派遣され4年勤務、その後帰国して日本で5年勤務した場合、
日本における勤続年数は7年となり年金の受給資格(10年加入)を満たしませんが、
アメリカ勤務の期間も通算できるため合計11年が年金加入期間となり、
年金の受給権を得ることができます(年金の受領額は日本で支払った7年分に相応する金額となります)。
また、アメリカにおいても支払った4年分に相応する年金の受給権が発生することになります。
(受給の要件については個別に要確認となります)
現在この社会保障協定は
発効済み17カ国
(ドイツ、 カナダ、 ブラジル、英国、オーストラリア、スイス、
大韓民国、オランダ、ハンガリー、アメリカ、チェコ、インド、
ベルギー 、スペイン、ルクセンブルク、フランス、アイルランド)
署名済み4カ国(イタリア、中国、フィリピン、スロバキア)
政府間交渉中3カ国(スウェーデン、フィンランド、トルコ)
となっています。
これらの国と人的交流を持つ機会がある企業は事前に検討して、
その恩恵を最大限に受けるようにするのがよいかと思います。