国際税務Vol.22 海外に居住した後に株式を譲渡した場合 ~課税されないって本当?~
海外に居住した後に株式を譲渡した場合
国際税務Vol.22
~課税されないって本当?~
こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の宮崎です。
先日、お客様からこのようなご質問を頂きました。
「私は、30年前に裸一貫で事業を立ち上げ、株式価値は200倍にした。やりたいことはやり尽くした。
年も年だし事業を引退して、シンガポールに引っ越そうと思っている。
ところで、シンガポールに引っ越した後に、株式を売却すれば、日本の所得税はかからないと聞いたけど本当か?
株式は全て私が保有していて、売却する際は、全株式を売却しようと思っている。」
<回答>
「国をまたいだ取引については、国内法と租税条約の2つを確認する必要があります。
結論から言いますと、国内法と租税条約どちらにおいても日本で所得税課税されます。
申告と納税は忘れないようにしてください。」
【国内法】
所得税法では、非居住者は、国内源泉所得について課税されると規定しています。
その中で、特殊な所得として、「事業譲渡類似株式」の売却益があります。
事業譲渡類似株式とは、日本法人株式の譲渡に関して、
以下の「所有株式数要件」及び「譲渡株式数要件」を共に満たすものをいいます。
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<<事業譲渡類似株式>>
①「所有株式数要件」
譲渡の年以前3年以内のいずれかの時点で、内国法人の発行済株式の25%以上を有すること。
②「譲渡株式数要件」
譲渡の年において、当該内国法人の発行済株式の5%以上を譲渡すること。
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ご質問の場合
30年前から継続して100%の株式を保有し、
今回、株式を100%譲渡する予定ですので、この課税要件に合致することになります。
なお、税金は下記の計算式で算定します。
(株式の譲渡収入―株式の譲渡原価)×15.315%
【租税条約】
ただし、国内法の確認だけでは問題があります。
国と国との取り決め=「租税条約」を確認する必要があります。租税条約は国内法に優先するからです。
日本とシンガポールの租税条約には、第13条に譲渡収益の条項があります。
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第13条(譲渡収益)
(b) 一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の株式の譲渡によって取得する収益に対しては、
次のことを条件として、当該他方の締約国において租税を課することができる。
・当該譲渡者が保有し又は所有する株式(―省略―)の数が、
当該課税年度中又は当該賦課年度に関わる基準期間中のいかなる時点においても当該法人の株式の総数の少なくとも25パーセントであること。
・当該譲渡者及びその特殊関係者が当該課税年度中又は当該賦課年度に係る基準期間中に譲渡した株式の総数が、
当該法人の株式の総数の少なくとも5パーセントであること。
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25%以上の株式を所有していた時点をいつと捉えるかが異なるだけで、日本国内法の規定とかなり似ていますね。
結論として、国内法でも租税条約でも、ご質問の株式取引は課税対象になります。
その反面、仮に、株式を4%だけ譲渡した場合は、日本での課税はございません。
日本で課税されないで100%売却するまでには、途方もない時間がかかりますが。。
海外に居住すれば、日本の株式を譲渡したとしても日本の申告義務はないと勘違いされているお客様が実に多いのですが、
課税される可能性がありますのでご注意ください。