国際税務Vol.8 移転価格のリスク~保険は必要なのか?~
移転価格のリスク
国際税務Vol.8
~保険は必要なのか?~
こんにちは。
季節はずれの暑さが続き、梅雨へと突入するこの時期、体調を崩されたりしていないでしょうか。
そろそろ紫陽花の見ごろとなります。有名な鎌倉のお寺は激混みなので気合と体力が必要ですが、何気なく通りに咲いている紫陽花を眺めるのも風情があっていいものです。
国際取引をしていると、移転価格の問題とは無縁ではいられなくなります。
二国間による税金の取り合いという、仁義なき戦いです。
運悪くその渦に巻き込まれる前に、何か予防する方法はないものなのでしょうか?
さて今週は移転価格に関する事前確認制度がテーマのSUレターです。
予防するにはどうしたらいいかというと
コスト意識の高いグローバル企業は各国の税率の違いに着目し、
より低い税率の国に所得を集めて節税しようとします。
関連者間であるがゆえに、取引価格の設定に自由度があるため、
その気になればかなり大胆な節税も可能となります。
しかしながらそういった行為は当然当局から許してもらえず、
移転価格税制が発足する運びとなりました。
移転価格税制のやっかいなところは、何をもって適正価格であるかを示すことが容易でない点にあります。
企業側に節税の意図はなくてもその設定価格にイチャモンをつけられ、
あれよあれよという間に多額の追徴課税を受けることもあるのです。
会社としては真面目な納税者でありたいと思っているのに、
ある日突然理不尽な課税を受ける不安を抱えながら海外取引をするのもストレスですね。
それがイヤだ!と感じる企業は事前確認制度(Advance Pricing Agreement –“APA”(某ホテルチェーンと同じ発音ではありません。通称”エーピーエー”といいます)を利用することを検討すべきかもしれません。
事前確認制度とは
これは、企業が今後数年間行う国外関連取引の価格設定について、
税務当局から事前に確認を取る制度となります。
このAPAを取得した場合、合意された移転価格算定方法に基づく納税を行う限り移転価格課税が行われることはありません。
いわば、税務当局から移転価格にお墨付きをもらうわけです。
この制度には一国内のユニラテラルAPA、二国間のバイラテラルAPA、さらには複数国間のマルチラテラルAPAがあります。
ユニラテラルAPAは自国内だけでの確認であるため、
外国の税務当局から課税を受けるリスクを回避することができません。
したがってほとんどがバイラテラルAPA(時にマルチラテラルAPA)となります。
導入は?
事前に予防できる制度があるなら、ぜひともすぐに取り入れたいのですが、
決して簡単なプロセスではないのがネックとなります。
二国、または複数国の税務当局の相互協議を経るため、
成立までにかなり時間を要します。
また、必要な文書作成や当局との対応には相当の専門知識と経験が必要なため、
外部のアドバイザーの手を借りずに行うことはほぼ不可能となり、それなりのコストもかかります。
悩ましいところですが、通常の税務調査より遥かに会社側の負担がとても大きい移転価格調査を回避できるのであれば・・・費用対効果を考え、保険として導入することも一考の価値ありなのです。