相続・事業承継Vol.33 財産を守る!民事信託 -地主編-
財産を守る!民事信託 -地主編-
相続・事業承継Vol.33
皆様こんにちは。
SUパートナーズ税理士法人の乾です。
民事信託のシリーズ、今回は地主さんを想定したお話です。
地主さんを外から見ている人たちの一般的な印象は、
不動産が働いてくれて不労所得を得る裕福な人たち、
といったところでしょうか。
確かに一見当てはまりますが、案外地主さんは苦労しています。
昨今は相続対策目的でアパートの建築が増え、競合が多くなって空き室率が増えたり、
老朽化した建物を多額の借入金で改修したり、
相続の度に税金を払うのに苦労して、預貯金が貯まらなかったり、
相続人同士がもめて不動産を活用できないことがあったり、
納税などのために不動産を切り売りしていかなければならなかったり、、、
不動産を維持するのも簡単ではありません。
民事信託で何ができるのか?
事例で考えてみましょう。
元々農家の家系のAさん(80歳)は、三鷹市において不動産賃貸業を営む地主さんです。
妻(専業主婦)は 病弱で、6歳年下の74歳です。
財産内容としては、
・預貯金6000万円
・100坪の自宅
・築35年の木造アパート(1棟4部屋)を2棟
・平屋のアパートを4棟(4部屋)
・駐車場(10台)
・少しの畑
三鷹の不動産は値上がりしており、相続税評価で約3億円でした。
息子2人(50代後半)は、それぞれ結婚して独立して都内で生活しています。
息子たちは仲良く3ヶ月に1度は孫を連れてAさんの実家に集まり、食事を共にしたりしています。
今まで1度も相続について家族に話すことを考えたこともなかったAさんも80歳になった頃から不安も少しあり、
専門家の意見を聞いたうえで出来ることをやっておこうと考えました。
このような例において、問題となるのは
①高齢化による判断能力の低下
②老朽化してくるアパートの修繕や建て替え
③Aさんの死後の妻の生活
④相続対策
などです。
このようなケースで検討されるのは、民事信託と任意後見です。
どちらも本人の判断能力が低下していない段階で契約を作る必要があります。
それぞれのメリット、デメリットを見てみましょう。
任意後見・民事信託のメリット・デメリット
任意後見
メリット
- 療養看護ができる
- 家庭裁判所から選ばれた任意後見監督人(弁護士)が後見人を監督するため牽制効果がある
デメリット
- 積極的な財産運用や相続対策は出来ない
- 被支援者が契約した内容について、取消権がない(詐欺被害に会う可能性がある)
- 家庭裁判所への報告義務がある
- 同居している親族でない場合、任意後見のスタートが遅れる可能性がある(家庭裁判所に申請してから2~4ヶ月はかかる)
- 基本的に後見人は親族がなることが多く。その場合報酬を支払わない事が多い。
しかし、裁判所が選任する任意後見監督人の報酬は、
財産額が5000万円以下:1~2万円/月くらい、5000万円超:3万円/月~が目安。
(財産額により監督責任も重くなるため報酬も高くなる。報酬額は、裁判所が決める)
民事信託
メリット
- 判断能力があるうちから受託者に任せるため、受託者の行動を見守ったり、監視したりできる
- 財産の安全性を考慮しながら運用や相続対策が可能
- 遺言書に似た効果を持っている
デメリット
- 財産管理のツールであるため、身上看護に対応できない。(任意後見との組み合わせが必要となる可能性)
- 受益者連続信託は、遺留分減殺請求についての論争がある
- 弁護士、司法書士、税理士などの継続的な関与が必要なため費用がかかる
- 信託財産にかかる債務(建て替えのローンなど)について、相続税の債務控除ができるかどうかついて論争がある
最善の策は・・・
これらのメリット、デメリットを総合的に考えながら、息子たちの協力を得て制度を考えていくことになります。
これだけの資産規模ですから、相続対策もしていかなければ、相続税もかなりのものになります。
そういった意味では、民事信託を中心に、判断能力が亡くなった際の身上看護を任意後見で行えるようしても良いかもしれません。
息子たちの意見も聞いたうえで、どちらかに受託者になってもらい、
受益者は当初はAさんとし、Aさんの亡くなった後は妻にすることにより妻の生活を安定させます。
2次相続も考えると財産の一部はAさんの相続時に息子たちが取得するよう設計する必要もあると思います。
また受託者が個人の場合、死亡リスクがあるため後継受託者としてもう一人の息子を入れておくべきでしょう。
また相続対策として一定の時期にアパートの大規模修繕又は建て替えも検討したほうが良いでしょう。
駐車場については、相続評価が高くなることから活用を検討する必要もあります。
そのほかAさん夫婦の生活設計も考えたうえで、孫への贈与も検討しても良いかもしれませんね。
金融資産とちがい、手間がかかる不動産ですから早めのご相談がご一族にとって良い方法が見つかると思います。
お気軽にご相談ください。