相続・事業承継Vol. 22 相続した非上場株式を買い取ってもらった場合の特例 2つのお得な制度とその考え方
相続した非上場株式を買い取ってもらった場合の特例
相続・事業承継Vol. 22
2つのお得な制度とその考え方
皆様こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の押味です。
非上場の株式を相続で取得した場合、
その会社の運営を行う後継者以外の方にとってはなかなか使い道に困るものです。
しかも換金が難しいため、相続税の納税にも充てられません。
そこで活用したいのが、今回ご紹介する“金庫株にする場合の2つの特例”です。
これをうまく使えれば、税負担も少なく、余計なもめ事も起きなくなる!かもしれません。
特例その1 みなし配当の特例の内容
これは「相続で取得した株式を、その株式の発行会社に売った場合に、みなし配当を生じさせません」という特例制度です。
通常は、会社が自己株式を買い取る時、
売る側にとっては、売買に伴う「譲渡」部分と「みなし配当」部分が生じます。
この「みなし配当」部分は総合課税の配当所得のため、給与所得などと合算されたうえで、累進税率で課税されます。
つまり、住民税と併せると最高で配当額の半分くらいの税金がとられてしまいます。
一方この特例では、“みなし配当とされてしまう部分を生じさせないことができる”
つまり、売る側にとって“全体を譲渡所得として取り扱う”ことができることになります。
例)買取価額100万円(通常:配当部分30万円/譲渡対価部分70万円)、原価50万円
①通常の場合の税金(累進税率55%だとして)
譲渡所得:70万円-50万円=20万円。20万円×20.315%=40,630円
配当所得:30万円×55%=165,000円
合計…205,630円
②特例の場合の税金
譲渡所得:100万円-50万円=50万円。50万円×20.315%=101,575円
配当所得:0円
合計…104,055円(通常の場合と比べて約1/2)
特例その2 取得費加算の特例の内容
これは、「相続で取得した株式を誰かに売却する場合には、取得費(原価)に相続税額を含めていいですよ」という特例制度です。
通常は、株式を売却した場合には、
売却金額 - 取得費(売却原価) - 譲渡にかかった費用 = 利益
に対して税金がかかります。
一方この特例では、
売却金額 - 取得費(売却原価) - 譲渡にかかった費用 -相続税額のうち一部= 利益
に税金がかかります。
つまり、相続税額のうち一部の分だけ利益が圧縮されます。
※相続税額のうち一部とは
売却する人が相続で取得した際の相続税額のうち、その株式に対応する金額のことです。
活用の考え方
特例の内容が分かったところで、どのように使えばいいのかを見てみましょう。
考え方その1 株式の取得者視点
相続で株式を取得した後継者以外の方にとっては、ドライな見方をすれば
「会社も継がないうえに換金できない財産を相続して、相続税がかかってしまうのはちょっとな…」
という気持ちも、きっと生まれてきます。
そんな時にこの特例を使いつつ、発行会社に株式を譲渡します。
そうすれば、税金は通常より大いに有利なうえに、会社に株式が集まるので、
後継者にとっても有用で、余計な波風が(比較的)立ちません。
考え方その2 会社の後継者視点
後継者にとっては、事業を引き継がない人に株式を持たれているということは気が気ではありません。
いつ何を言われるか、更に株式が分散したらどうしようか、と悩みます。
また、後継者以外の方から株式を買い取るとなると資金が必要なうえ、
先代から自分たちの代に残された会社を、自分一人が独占しようとしているようにさえ捉えられてしまい、
もめ事を生みかねません。
そんな時、(いきなり自分から言い出すと揉めかねないので)税理士など他者のアドバイスも借りながらこの制度を紹介し、
後継者以外にとっても大きなメリットがあることを伝えれば、余計な波風が(比較的)立ちません。
まとめ
要は、様々な使い方、紹介の仕方、捉え方です。
税金が通常より安く済む特例制度単独では、争族やすべての事業承継をすんなり解決することにはなりません。
特例の背景にある目的や想定されている状況を理解し、自分達に当てはめて活用することでやっと役に立ちます。
平成30年度税制改正で取り入れられた事業承継税制もしかり、今回ご紹介した特例もしかりです。
最後に、ご紹介した特例には、適用するための手続きや要件がございますので、
適用をお考えの際には事前にお近くの専門家にご相談ください。