国際税務Vol.2 海外出向者の一時帰宅時の税務 ~海外出向者が日本に一時帰宅したときは要注意~
海外出向者の一時帰宅時の税務
国際税務Vol.2
~海外出向者が日本に一時帰宅したときは要注意~
こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の宮崎です。
さて、今週は国際税務がテーマになります。
あるお客様から、下記のような質問がありました。
「海外の子会社にある従業員を5年ほど派遣していたが、
今後は、日本本社の従業員と会議をしていい影響を与えてほしいため、
3ヶ月ごとに2週間ほど日本本社で一時勤務することにした。
現在、この従業員の給与は、海外子会社が支給しているが、
留守宅手当と賞与は日本本社が支給している。
何か税務上問題になりますか?」
さて、どういった問題があるのでしょうか。
結論から言いますと、
従業員に支給する留守宅手当や賞与のうち、日本本社での勤務に係る部分は、
20.42%の源泉税が課せられます。
また、海外子会社が支給している給与のうち、日本本社での勤務に係る部分は、
日本で確定申告する必要があります。
ただし、租税条約が締結されている場合は、確定申告の必要はありません。
居住者・非居住者の判定
まず、この従業員が居住者か非居住者か判定をします。
税法上、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する者とされています。
また、非居住者とは、居住者以外の者とされています。
海外赴任の場合、海外赴任期間が1年以上の予定の者は、
出国時に非居住者とされます。
そのため、この従業員は非居住者に該当します。
日本本社が支給した給与等の課税は?
非居住者は、日本の国内源泉所得についてのみ課税されます。
この国内源泉所得の定義を、所得税法161条12号イに給与について次のように規定しています。
「俸給、給料、賃金、歳費、賞与又はこれらの性質を有する給与その他人的役務の提供に対する報酬のうち、国内において行う勤務その他の人的役務の提供(―省略―)に基因するもの」
つまり、この従業員が、日本本社で一時勤務した期間に対応する給与等は、「国内源泉所得」となります。
そのため、日本本社が従業員に支給する留守宅手当や賞与のうち、日本本社での勤務に係る部分は、20.42%の源泉徴収をする必要があります。
海外子会社が支給した給与等の課税は?
非居住者は、国内源泉所得について日本で課税されますが、
それは、海外子会社が支給している給与についても同様です。
つまり、海外子会社が従業員に支給している給与のうち、日本本社での勤務については、「国内源泉所得」となり、確定申告をする必要があります。
短期滞在者免税について
上記のように、原則として、海外子会社が支給している給与のうち、日本本社での勤務については日本で課税問題が発生しますが、その海外子会社の所在する国が日本と租税条約を締結している場合は、課税問題が発生しない可能性があります。
それは、租税条約に規定されている、「短期滞在者免税」の制度によるものです。
「短期滞在者免税」とはよく「183日ルール」と言われるものです。
下記の3つの要件を満たす場合、短期滞在者免税として日本では課税されません。
- 滞在日数基準 滞在期間が継続する12カ月において合計183日以内であること。
- 支払地基準 従業員に支払われる給与が、日本法人から支払われていないこと。
- PE負担基準 従業員に支払われる給与が、相手国企業の本国内に保有するPE(恒久的施設)によって、負担されていないこと。
例えば、日米租税条約においては、短期滞在者免税の要件とされる我が国での滞在期間をその課税年度において開始又は終了するいずれの12か月間においても合計183日以下であることを要件としています。
従いまして、海外子会社と租税条約を締結しているか、また、短期滞在者免税条項があるかを確認する必要があります。